接待事情
私は、1年前まで大手旅行会社で勤務していた。
ここ十数年の間でビジネスにおけるいわゆる「接待」は少なくなってきたがそれでも多く残っている。
私はその企業の営業部門に所属していたが、主に教育マーケット(学校)が取引先であった。
中学校や高等学校で行われる修学旅行や海外研修旅行の営業である。
この世界で行われている接待は大きく二つあるといえる。
一つ目が下見旅行である。
これらのマーケットにおいては、本番の旅行の1年から2年前に入札方式で旅行会社を決める場合が多い。
決まった後はその旅行業者と打合せを進めていくのだが、学校によっては該当の先生数名と旅行業者の担当者とで下見旅行を実施する場合がある。
本番で実施する内容をある程度短縮して行程を組んでいく。
例えば、本番が3泊4日のの旅行であれば下見は2泊3日か1泊2日で行われる。
学校としてはこの旅行の教育的要素が旅行の趣旨と沿っているのか、食事内容は問題ないか、安全面に不安はないか等を言葉通り下見するためのものだ。
旅行会社にとってこの下見旅行は接待
しかし旅行会社にとってこの下見旅行は接待以外のなにものでもない。
まず費用面であるが、やはり先生無料ないしは無料に近い状態の場合が多い。
そして夕食時にアルコール飲料を提供する場合もある。
また、終日四六時中エスコートをしなければならない。
二つ目は、本番の旅行における接待である。
入社は、いまから20年前になるが当時がこれから述べることが普通におこなわれていた末期の年であった。
いまでは接待費・交際費という観点から、公立高校の修学旅行におけるそれは厳禁となったがこれから述べることが普通におこなわれていた。
私立の学校では、現にいまでも存在している。
夕食時、昼食時や打合せ時における過度の飲食の提供
夕食時、昼食時や打合せ時における過度の飲食の提供である。
ある公立高校は、スキー研修旅行と銘打って北海道へ3泊4日の修学旅行を実施していた。
宿泊は1日目から3日目までは富良野のホテルである。
夕食は、時間帯は生徒と同じ時間帯に設定してあるが教員と旅行業者の添乗員は別室の個室を用意してある。
生徒は、修学旅行ならではの居酒屋のような多少豪華な食事を楽しんでいるが、実は別室の個室で先生方はすごく豪華な食事を堪能されていたのである。
北海道ならではの食材、毛ガニが一杯ずつ先生の食卓においてある。
食べきれないほどの新鮮ないくらやうにやエビの寿司がならんでいる。
もちろんアルコールも提供される。
ただし、夕食時は控えめである。
その理由は、生徒が就寝後この別室で再び大宴会が開催されるからである。
深夜1時2時まで続くのは普通であり、悪いときは朝の4時5時まで終わらないこともあった。
その時の会話は酷いものである。
生徒や親の悪口が大半であり、時には生徒の品評会が行われたりする。
男性教員の間では、生徒のセクシャル的な話題に至ることもあった。
それに朝まで付き合わされる、担当者はたまったものではない。
これが三日三晩7続くのであるから仕事とはいえ地獄であった。
いまでは考えられない話であるが、昼食時にビールを提供することもあった。
営業の手間を省くことができる
なぜ旅行業者はここまでするのかという疑問が湧いてくるだろう。
そこには、営業の手間を省くことができるからである。
修学旅行の添乗は、一番手っ取り場合営業機会なのである。
校長先生や教頭先生と飲みの場をこちらから設定でき、本音を何時間にも渡って聞き出すことができる。
そして、十数人との先生と何時間も飲み交わすことによって人間関係を築くことができるのである。
本来の営業となるとなんとかアポイントをとって少ない時間で自分をアピールしなければならない。
添乗は究極の営業チャンスであるといわれるのはそういった理由があるからだ。
古き良き時代なのか、悪しき慣行なのかわからないが、現代社会ではコンプライアンスという言葉に縛られて上述のような豪快なビジネスシーンが皆無となった。
「営業=本音を引き出すこと」
話を主題に戻すが、営業手法とはどういうことなのだろうか。
私は、営業手法の一つであると考えている。
営業の手法は幾多とあり、またその手法に正解はないであろう。
ただ一つ言えることは、営業=本音を引き出すことであるのではないか。
ある営業マンは自慢の会話術で顧客の懐に飛び込んでいき本音を聞き出し、獲得に成功する。
またある営業マンは飲みの機会を作ることで、本音を引き出すことができるかもしれない。
枕営業もそれらの手法のひとつであるだろう。
ビジネスが絡んでいなければ、そこには営業は存在しないだろう。
何のためにお金と時間をかけて、本音を聞き出そうとしたり自分を売り込もうとするのか。
そこにかけたお金と時間以上のお金と名声が返ってくるからである。
エビで鯛を釣るという言葉があるが、接待=エビであるだろう。
時にはエビ以上のものになり大きな社会問題になることもある。
エビが鯛を超えてしまっては費用対効果が矛盾する。
ビジネスシーンにおいてエビと鯛のバランス感覚を養っていかなければ、成功できないだろう。