食品ロス削減とリサイクルの取り組み事例

近年、食品ロスが大きな社会問題として注目を集めています。日本では年間612万トンもの食品廃棄物が発生しており、その約半分が食品ロスとされています(出典:農林水産省、2019年)。食品ロスは、環境負荷の増大や資源の無駄遣いにつながるだけでなく、食料不足に苦しむ国々の人々にとっては看過できない問題です。

私は、サステナビリティコンサルタントとして、企業の食品ロス削減とリサイクルの取り組みを支援してきました。本稿では、食品ロス問題の現状を整理した上で、企業の先進的な取り組み事例を紹介します。また、食品リサイクルの現状と課題、食品ロス削減との連携についても探っていきます。

食品ロス問題の現状と課題

食品ロスの定義と発生要因

食品ロスとは、本来食べられるにもかかわらず廃棄される食品のことを指します。食品ロスは、以下のような要因で発生します。

  1. 過剰生産・在庫:需要予測の誤りや売れ残りによる廃棄
  2. 規格外品:サイズや形状が規格に合わないことによる廃棄
  3. 返品:納品後の返品による廃棄
  4. 食べ残し:レストランなどでの料理の食べ残しによる廃棄

このように、食品ロスは生産から消費に至るまでのあらゆる段階で発生しています。

日本における食品ロスの現状

日本では、年間612万トンの食品廃棄物が発生し、そのうち328万トンが食品ロスとされています。これは、国民1人当たり年間約25.5kgの食品を廃棄していることになります。

食品ロスの内訳を見ると、事業系が約54%、家庭系が約46%を占めています。事業系の食品ロスは、主に小売業や外食産業から発生しています。一方、家庭系の食品ロスは、買い過ぎや料理の作り過ぎ、食べ残しなどが原因となっています。

食品ロス削減の必要性

食品ロスは、以下のような点で大きな問題があります。

  1. 環境負荷の増大:食品の生産から廃棄までには、多くのエネルギーや資源が消費される。食品ロスは、それらを無駄にしてしまう。
  2. 経済的損失:食品ロスは、食品の売上減少や廃棄コストの増大につながる。
  3. 社会的影響:世界では8億人以上が飢餓に苦しんでいる。食品ロスは、食料不足の解消を阻む要因の一つである。

食品ロスを削減することは、環境保護、経済的利益、社会的責任の観点から、企業にとって重要な課題と言えます。

食品ロス削減に向けた企業の取り組み

需要予測と発注管理の最適化

食品ロスを削減するには、需要予測の精度向上と適切な発注管理が欠かせません。過剰在庫や売れ残りを防ぐことが重要です。

小売業では、AIを活用した需要予測システムの導入が進んでいます。過去の販売データや気象データ、イベント情報などを分析することで、精度の高い予測が可能になります。また、発注段階でも、商品の鮮度や販売状況に応じて、最適な発注量を算出するシステムが開発されています。

外食産業でも、需要予測に基づいたメニュー開発や仕入れ管理が行われています。売れ筋メニューの分析や顧客の嗜好把握により、食材の無駄を減らす工夫がされています。

賞味期限の延長と表示方法の工夫

食品ロス削減には、賞味期限の延長と分かりやすい表示が有効です。賞味期限の延長は、食品の品質を保ちながら、廃棄のリスクを減らすことができます。

例えば、ある食品メーカーでは、製造工程の見直しにより、賞味期限を従来の1.5倍に延長することに成功しました。品質管理の徹底と技術革新により、食品ロスの削減につなげたのです。

また、賞味期限の表示方法を工夫することも大切です。「年月日」表示から「年月」表示への変更や、「賞味期限」と「消費期限」の違いを明確にすることで、消費者の理解を促し、過剰な廃棄を防ぐことができます。

食品ロス削減キャンペーンの実施

食品ロス削減には、消費者の意識改革が不可欠です。企業は、消費者向けのキャンペーンを通じて、食品ロスの問題を訴求することが重要です。

小売業では、「食品ロス削減月間」を設けて、店頭での啓発活動やSNSでの情報発信を行っています。また、食品ロスにつながる「3分の1ルール」の見直しを呼びかけるキャンペーンも実施されています。

外食産業でも、「食べきり運動」や「持ち帰り容器の提供」など、食べ残しを減らすための取り組みが行われています。消費者に食品ロスの問題を身近に感じてもらうことが、行動変容のきっかけになります。

私が関わった食品メーカーでは、賞味期限間近の商品を無料で提供する「フードドライブ」を実施しました。消費者の反響は大きく、食品ロスに対する意識の高まりを実感しました。企業と消費者が連携することで、食品ロスの削減は加速すると感じています。

食品リサイクルの現状と課題

食品リサイクル法の概要と改正点

食品ロスの削減と並行して、食品廃棄物のリサイクルを推進することも重要です。日本では、2001年に「食品リサイクル法」が施行され、食品関連事業者に対して食品廃棄物の再生利用などが義務付けられました。

食品リサイクル法は、2007年と2015年に改正され、リサイクルの対象が拡大されました。現在は、食品製造業、食品卸売業、食品小売業、外食産業が対象となっています。食品廃棄物の発生抑制が最優先とされ、次いで飼料化、肥料化、バイオガス化などのリサイクルが求められています。

食品リサイクルループの構築事例

食品リサイクルを効果的に進めるには、食品関連事業者、再生利用事業者、農畜産業者などが連携し、食品リサイクルループを構築することが重要です。

食品リサイクルループの先進的な事例としては、以下のようなものがあります。

企業名 取り組み内容
A社(食品メーカー) 自社工場から出る食品残さを飼料化し、その飼料で育てた豚を自社商品の原料に使用
B社(外食チェーン) 店舗から出る食品廃棄物を肥料化し、その肥料で栽培した野菜を店舗で使用
C社(小売業) 消費者から回収した食品廃棄物をバイオガス化し、店舗の電力として利用

このように、食品リサイクルループを構築することで、食品廃棄物が再び食品の原料や生産資源として活用されます。これは、資源の循環利用と食料自給率の向上にもつながります。

食品リサイクルの課題と解決策

食品リサイクルを推進する上では、以下のような課題があります。

  1. コストの問題:食品廃棄物の分別や再生利用には、追加のコストがかかる。
  2. 品質の問題:食品廃棄物から作った飼料や肥料の品質管理が難しい。
  3. 需給のミスマッチ:再生利用事業者と食品関連事業者との間で、需要と供給のバランスが取れない。

これらの課題に対しては、以下のような解決策が考えられます。

  • 食品廃棄物の分別の徹底と効率化により、リサイクルコストを削減する。
  • 再生利用事業者の技術力向上と品質管理体制の強化により、高品質な飼料や肥料を供給する。
  • 食品リサイクルループの参加者間で情報共有を密にし、需給のミスマッチを防ぐ。

行政の支援策も重要です。リサイクル施設への投資補助や税制優遇などにより、食品リサイクルの経済的なハードルを下げることが求められます。

食品ロス削減とリサイクルの連携事例

食品廃棄物の再生利用の取り組み

食品ロス削減とリサイクルを効果的に連携させるには、食品廃棄物の再生利用に積極的に取り組むことが重要です。再生利用は、食品ロスの削減と資源の有効活用を同時に実現できます。

株式会社天野産業は、食品リサイクルの分野で先進的な取り組みを行っています。同社は、食品メーカーなどから排出された食品廃棄物を引き取り、飼料や肥料に加工しています。その際、独自の技術を用いて、高品質な再生製品を生産することに成功しています。

再生利用の取り組みは、食品関連事業者とリサイクル業者との連携が鍵となります。両者が協力して、食品廃棄物の適切な分別と再生利用の体制を構築することが求められます。

フードバンクとの連携による食品寄付

食品ロス削減には、フードバンクとの連携も有効です。フードバンクは、まだ食べられるにもかかわらず廃棄される食品を企業などから引き取り、福祉施設や生活困窮者に無償で提供する活動を行っています。

食品関連事業者は、賞味期限が近い食品や包装不良品などを、フードバンクに寄付することで、食品ロスの削減に貢献できます。寄付された食品は、必要とする人々の手に届けられ、社会貢献にもつながります。

フードバンクとの連携を進めるには、以下のような点に留意する必要があります。

  • 寄付する食品の品質と安全性を確保する。
  • フードバンクの活動内容や運営体制を確認する。
  • 寄付食品の受け渡しや在庫管理の方法を調整する。

私が支援した食品メーカーでは、フードバンクとの連携により、年間10トン以上の食品を寄付することができました。これは、食品ロスの削減と社会貢献を両立する取り組みとして、社内外から高く評価されました。

地域社会と協働した食品ロス対策

食品ロス削減は、企業だけでなく、地域社会全体で取り組むことが重要です。地域住民や自治体、NPOなどと協働することで、より大きな効果を生み出すことができます。

具体的な取り組み事例としては、以下のようなものがあります。

  1. 地域の飲食店と連携した「食べきり運動」の展開
  2. 自治体と協力した食品ロス削減キャンペーンの実施
  3. NPOと共同で行う食品ロス問題の啓発イベントの開催

地域社会と協働する際は、以下のような点に注意が必要です。

  • 地域の特性や課題を踏まえた取り組みを行う。
  • 連携先との役割分担や責任範囲を明確にする。
  • 活動の成果を地域に還元し、継続的な取り組みにつなげる。

株式会社天野産業は、地域の農家と連携して、食品残さを飼料や肥料として活用する取り組みを行っています。これは、地域資源の循環利用と地域経済の活性化にもつながる好事例と言えます。

食品ロス削減は、企業と地域社会が一体となって取り組むことで、より大きな成果を上げることができます。地域の力を結集した食品ロス対策を進めていくことが求められています。

まとめ

本稿では、食品ロス問題の現状と企業の取り組み事例を見てきました。食品ロスは、環境負荷の増大や資源の無駄遣いにつながる深刻な問題です。企業は、需要予測の最適化や賞味期限の延長、消費者への啓発活動などを通じて、食品ロスの削減に努めています。

また、食品リサイクルの推進も重要な課題です。食品リサイクル法に基づき、食品関連事業者は食品廃棄物の再生利用に取り組んでいます。食品リサイクルループの構築や再生利用技術の向上により、食品廃棄物が新たな資源として活用される事例が増えています。

さらに、食品ロス削減とリサイクルの連携も進んでいます。フードバンクとの協働による食品寄付や、地域社会と一体となった食品ロス対策など、多様な主体が連携することで、より大きな効果が生まれています。

しかし、食品ロス問題の解決には、まだ多くの課題が残されています。企業の取り組みをさらに加速させるとともに、消費者の意識改革や行政の支援策の強化が求められます。

サステナビリティコンサルタントとして、私は企業の食品ロス削減とリサイクルの取り組みを支援していきたいと考えています。企業の優れた取り組み事例を広く発信し、ステークホルダーとの対話を促進することで、社会全体の意識を高めていくことが重要だと感じています。

食品ロスの削減は、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」の達成に直結する課題です。私たち一人ひとりが、食品を大切にする心を持ち、ムダのない食生活を心がけることが求められています。企業と消費者、そして地域社会が連携し、食品ロス削減とリサイクルの輪を広げていくことを期待しています。